第一回:異なる断面積を通過する気体

2013321

1. はじめに

ここでは、「複合物理領域モデリング」の第7章の7.1.2節で解説したノズルを通過する気体の流量計算について、より一般の場合について詳しく説明する。

7.1.2節では、図1に示すような断面の異なる流路を通過する気体の流量を、上流の圧力 と密度、および、下流の圧力から求める方法について述べた。上流の管の断面積をとし、断面積から圧力の開いた空間に流出するものとする。ここでは、と仮定する。このような流れのモデルはエンジンのスロットル弁、吸排気弁を通過する流量計算など様々なところで利用されている。

一般には、を想定して、7.1.2節の(7.26)の上流流速をとすることで、解析的に(7.44)(7.45)を求める。(7.45)では質量保存則、エネルギー保存則、運動量保存則を用いているが、多くの文献では等エントロピー変化の式を用いている。ここでは、保存則と拘束に基づくHLMDによる「複合物理領域モデリング」であるHLMDの立場から質量保存則、エネルギー保存則、運動量保存則を用いて流量を求める。著者の経験によれば、運動量保存則を用いた方が実際のエンジンでの流量に合っているようである(実用流量係数を小さくでき、臨界圧が低圧側となる。)。このとき、双方のモデルで注意しなければならないことは、「流出速度は音速を超えない。」という条件を加味することである。

ここでは、上流断面にの仮定を設けず、伝熱を考慮する場合やより複雑な流路にも対応できるホモトピー法を用いた準定常状態の流量計算法を紹介する。

1 異なる断面を通過する気体の流れ

2. HLMDと生成される式

上流の圧力を、密度を、速度をとする。図1のコントロールボリュームに対するHLMDは図2の通りである。この例では、準定常状態を考えるので、コントロールボリュームを上流のどこまで取るかは自由である。

2 異なる断面積を通過する流れのHLMD

コントロールボリューム内の気体の質量を、エネルギーを、運動量をとする。図2中のはコントロールボリュームに流入する質量流量、はエネルギー流量、は運動量流量である。また、は断面積から流出する質量流量、はエネルギー流量、は運動量流量である。流出部での圧力を、密度を、流速をとすると、保存量流量は

 (A1)

 (A2)

 (A3)

 (A4)

 (A5)

 (A6)

で表される。保存則は、

 (A7)

 (A8)

 (A9)

となる。(A9)は壁面から圧力によって受ける力に相当し、気体の圧力の反作用としての力積であり、

 (A10)

と表される。これは、気体分子の壁面衝突によって生じる単位時間当たりの運動量変化に相当する。

保存量流量の数7あり、である。圧力、密度、流速を中間変数とすると、の中間変数が定義でき、中間変数の数をとすると、である。コントロールボリュームの容積をとすると、保存量の定義の式は

(A11)

 (A12)

 (A13)

となる。これらの式は第44.22節の(4.34)で示す拘束の式に含まれる。

が徐々に下がるとは徐々に増大する。しかし、が音速に達すると、流体中で最も速い情報伝達速度は音速なので、がそれ以上に下がっても、その情報は上流には伝達されない。したがって、流出部の圧力、密度、速度は音速に達した状態を保持することになる。そこで、

 (A14)

とする。ただし、ここでは、集中定数系として壁面における圧力分布を無視して、簡単に

 (A15)

とする。等エントロピー変化を仮定した場合は、特別な圧力分布を仮定しているとみなすことができる。(A14)(A5)(A6)に代入すれば、音速による律束条件を加味したことになる。

ここでは、準定常状態について考えることにして、(A7)(A8)(A9)の左辺を全て0とする。これは、3つの拘束を与えたことに相当する。さらに、は既知と仮定したので、拘束の式の数をとすると、准定常状態の仮定と既知の変数の条件によって、の拘束を与えたことになる。保存量流量の定義の式は(A1)(A6)、および、(A15)を与えた。すると、第44.42節の(4.42)に示すHLMDの変数と式の数に対する整合条件は

 (A16)

となり、満たされていることが分かる。一般には、の組み合わせ以外でも3変数を既知とするか、独立な3式を与えれば、HLMDは解けることになる。どの変数を既知とするかは、どの変数を計測するかに対応させることができる。圧力は比較的容易に計測でき、温度は熱電対のケーシングなどの伝熱を慎重に考慮する必要があるが計測可能である。密度は理想気体の状態方程式を仮定し、ガス定数が分かっていると仮定すると、圧力と温度から計算可能である。したがって、を与えることは実用的に意味がある。もし、流量を与えるとすれば、のいずれか1つを計算で求める問題を設定することができる。

今、上流の管の断面積が徐々に大きくなる場合を考えると、を有限とすれば、は徐々に小さくなる。極限ではである。このとき、(A7)(A9)は、

 (A17)

 (A18)

 (A19)

となり、第77.1.2節で記述したように、(A17)(A18)(A19)について解析的に解くことができる。

3 大気からの流入  

大気からの気体の流入を考えるならば、図3のようになる。上流の圧力センサは断面積の管に取り付けられる。密度を直接測ることは難しいので、温度を測定し、理想気体の状態方程式を用いて、

 (A20)

のように求める。ここで、は気体によって異なるガス定数である。

ここで扱うが有限の値を取る状況では、は未知数になるが、と同時にも求めるというモデルは既存の文献には見当たらなかった。圧力を一定とする大気からの流入の場合、の増大に伴って低下することになり、同様にも低下する。しかし、ここでは、、すなわち、を一定と仮定し、を求める。は計測可能なので、実際には圧力と温度を計測して、に変換すると理解して欲しい。を追加しているが、の計算には(17)を用いるので式と変数の数の整合条件は満たされている。

3. ホモトピー法

準定常状態を仮定した場合、(7)(9)は、

 

 (21)

と表すことができる。(A21)は非線形代数方程式で、解析に解くことは難しい。そこで、(A21)を解く代わりに、

 (A22)

を解く。(A22)の微分方程式の解は、の初期値をとして、

 (A23)

なので、のとき、となる。収束速度はによって調整できる。したがって、(A22)をとくことで、実用的にを解くことができる。(A22)

 (A24)

だから、

 (A25)

を数値計算で求めればよい。準定常状態を求める場合、常に(A25)式が現れるので、形式的に扱うことができる。が与えられたとき、の計算が必要だが、数式処理を用いれば簡単に求めることができる。

この方法は、解析解を求める必要がなく、保存則の式を直接使うのでフレキシビリティーが高い。上流で温度の管壁から気体への伝熱を考える場合は、エネルギー保存則(A8)

 (A26)

に変え、例えば、

 (A27)

のように伝熱の式を加えればよい。この場合、保存量流量が1つ増え、保存量流量の式も1つ増えたので、整合条件は、やはり、満たされている。

4. 実装

以下の手順でSimulinkに実装することができる。

ステップ1:

数式処理ツール(MapleMathmaticaMuPAD、など)(1)(6)、および、(15)を定義する。

ステップ2:

(21)を定義する。

ステップ3:

   (21)に数式処理による代入を繰り返し、を求める。この際、(14)による計算の分岐が必要となる。

ステップ4:

  数式処理ツールでで偏微分し、この行列をとする。

ステップ5:

SimulinkEmbedded MATLAB Functionにエキスポートし、

を出力させる。この信号をIntegratorで積分し、Scopeで見る。同時に、Scopeで見て、収束状況を確認する。

ステップ4とステップ5はベクトル関数はモデルによって変わるが、手順自体はモデルに依存しないので、汎用的な方法である。したがって、ここでの提供されたファイルはテンプレートとして各種の問題に適用できる。

5.ファイルの説明

提供するファイルは下記の通りである。

(1) basic_flow.mdl Simulink上で実装されたモデル

(2) basic_flow.mn      :数式処理MuPADによる保存流量の定義との計算

(3) basic_flow.mw :数式処理Mapleによる保存流量の定義との計算

(4) plot_basic_flow.m : basic_flow.mdlの実行結果をプロットするMファイル

basic_flow.mdlを開くと図4のモデルが現れる。を除変しながら準定常状態を計算することを想定して、計算時間は1000秒間、Scopeのサンプリング時間は1秒毎としている。Cal_dX/dtブロックを開くとの計算し、音速律束の扱いとを求めている様子が分かる。F(3,1)のベクトルで表し、A(3,3)の行列で表している。Integratorの出力はベクトルであり、初期条件としてを与えている。でもでもよいが、は妥当な値に収束しない。では計算はできない。一般に、HLMDは多重解を持ち初期値依存なので、注意が必要である。Basic_flow.mdlを実行した後にplot_basic_flow.mを実行すると図5の実行結果の図を得る。

4 SIMULINKへの実装例  

4Manual Switchで下流圧力を一定値とするか、除変するか切り替えている。図4は除変する場合を示している。は音速律束となっているかどうかを示すフラグであり、は音速律束でない場合、は音速であることを示す。の値であり、である。は流出流量であり、は流出部の圧力である。

5は実行結果を示している。下段の図はであり、が下がるとは増大し、は小さくなる。約700sで音速律束に達し、質量流量は一定になっている様子が分かる。

 

5 実行結果

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